やけに明晰な夢ばかり見るようになった。
先日は、高校の時の同級生の結婚式に同席するためにイタリアに行った。そして、イタリアからクルージング船に乗って青い海を眺める。日本海でもない、太平洋でもない、青い海の色がここが現実ではないことを教えてくれる。デッキから船内に入ると、背の高いウェイターが、微笑みを添えて、カクテルグラスをわたしに手渡す。上から見ると淡い桃色だが、横から見ると薄く流れる緑色。これは何ですかと尋ねると、ワインだと言う。そして、また笑みを見せる。わたしはアルコールを飲まないと言うと、アルコールは入っていないと言う。そして、ウインクをしてみせる。わたしは一口飲んでみた。そして驚いた。液体を飲んだわたしの口の中に、マスカットを熟成させたような柔らかい個体がある。筆舌出来ない味。悪意のまったくない味。生命を包み込んだようなまろやかで自由な味だった。産まれて初めて味わった。そして、甘露とはこのことか、と思った。思わず、ウェイターを探したが彼はどこを見てもいなかった。

夢で甘露を知ることになるとは思わなかった。


体育館のステージの真ん前で、いつもの掛け布団にくるまっているわたしがいた。会場には大勢の人が集まっている。司会者がステテージで何かを言っているが、わたしには聞こえない。そして、大信田礼子がステージに現れて「同棲時代」を歌い始めた。彼女は、一番を歌い終えると、布団を着て寝ている私のところへ来て、わたしの唇の間から赤い舌を入れてくる。

その赤い舌を私は見ている。舌が赤すぎる。ここは夢だと知る。彼女は赤い舌を時にゆっくり、時に強引に動かしてわたしの氣を引き寄せようとするが、心は動かない。わたしの口の中で動く赤い舌を私は見ている。彼女は今日子なのか?しかし、わたしは次郎ではない。唇を合わせたまま、彼女は布団の中に体を滑り込ませてくる。だが、体温が乏しい。わたしは、思い切り彼女の舌を吸い、布団を頭からかぶる。光が無くなった。彼女もいなくなった。

https://kamimurakazuo.com/2011/10/10/blog-pos-42/

さらに、明晰夢は続く。

昔、一緒に住んだことのある女性が、ベッドで亡くなっている。白いパジャマの右の胸あたりに2箇所、鮮血が着いている。その鮮血は血の香りがしない。わたしはここも夢だと思った。周りの看護師は「もう亡くなってるよ」と面倒臭そうに言うが、わたしはそんな戯言は信じない。わたしは彼女は生きていると感じて、彼女の両手を握り、「大丈夫だよ、起きなよ」と言う。静かに彼女は目を開けた。彼女は孤独だった。ずっと孤独だった。果てしなく孤独だった。わたしはそれを知っている。彼女の目は充血していた。わたしは両手に力を入れて、自分の氣を目一杯送り込み、彼女と話をした。「大丈夫だよ、遊ぼうか?」と言うと、彼女は大きな笑顔を作ってみせた。そして悲しんだ。そして涙を流しながら笑った。「ごめんね、ごめんね」と何度もわたしは謝った。彼女は嬉しそうに笑った。どこかが痛いのか、身体を捩りながら笑ってみせた。わたしは涙を流していた。やがて、彼女は力を失って行き始めたが、わたしは「大丈夫だよ。また、今度会おうね」と言った。彼女はゆっくりと頷いて、また喜んだ。わたしは涙を流していた。

目が覚めたとき、わたしは涙を流していた。両腕はパンパンに張っていて、痛かった。そしてとても荒い息をしていた。

こうして顛末を綴っている間も、私は涙を流し続けている。夢で見た彼女の感情の周波数がわたしの心から離れない。夢で見た彼女の顔が、わたしの網膜から消えないのだ。


現実など存在しないのではないか。
すべてはわたしの世界であり、わたしの体験であり、わたしの魂なのだ。

いろいろな女性と巡り合ってきたが、今思う。
「また会おうね」と。

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