昨年秋まで、障害を持った男性が、杖をつきながら2頭の犬を散歩させていた。
明らかに保健所に持ち込まれたれた年老いた犬である。この2頭の犬は、男性の横をゆっくりと歩きながら、時折男性の表情を見上げていた。そして、決して男性の前を歩くことはなかった。
その男性の姿を、秋も深まった頃から見かけなくなった。
心配していたら、この冬から、2人の親子をよく見かけるようになった。
お母さんが前を歩き、中学生くらいの女の子の手を引いている。
女の子は明らかに障害があり、片足を引きずるようにしていて、頭にはベージュ色のヘッドギアを着けている。散歩なのか、バス停から自宅への帰途なのか分からないが、うちの前の道を通っていく。
その女の子の世界にはお母さんしかいないだろう。二人とも言葉を交わすことはないが、女の子の後ろ姿には陰鬱なものを全く感じない。「今」という時だけを考えれば、彼女は幸せなのかも知れない。
見かけなくなった男性と犬。
急に見かけるようになったお母さんと女の子。
この世はわたしが作ったホログラムである。
そういうことを感じざるを得ない。
今日も日が暮れる。
みんな元気で。
みんな幸せで。
