雨が降る
冷たい雨が
青いトタン屋根に降る
金木犀に降る
そして、あ・な・た・に降る
わたしは誰なんだろう
ノートに名前を百回書いて眺めても
それがわたしだとは思えない
鏡に映るわたしの右目
ときどき知らない人の瞳になる
雨が降っている
わたしの奥深くに
夕べ洗った黒いストッキングが軒下でだらしない
この世界には
わたしだけ
わたしだけしかいない
こころが言っている
いのちが言っている
抱えたひざ小僧を手のひらでこすってみる
だれもいない
少し首が右に傾くわたしの癖
ふしぎ
ふしぎ
雨が降っている
わたしを溶かすように
静かに
そして静かに
