いつのことだっただろう。

昼下がりに電話のベルが鳴った。

「私を縛ってくれませんか」

知らない女性だった。

強い日差しが少し傾きかけている。




その日の夜、私は彼女とモーテルに行った。

彼女はセーラー服を着ていた。

抜けるように白い肌は私の手に纏わりつき、縄で拘束された乳房は赤く染まったまま黙していた。

私はしばらく何もしなかった。ただ、縛られた彼女の心を眺めていた。


やおら、股間に手を差し伸べただけで、柔らかな液体が私の指を濡らした。

縄を絞り上げるだけで、彼女は何度も身体を震わせて、息をつまらせた。

拘束された彼女は美しかった。

すでに言葉を超えていた。

長い髪を何度も飽かず撫でた。

翌日、電話のベルが鳴る。

その日は病院に行かなければいけない日だった。夜は人と会う約束をしていた。

その後電話のベルは鳴らなくなった。



10日ほどして、男性から電話がかかってきた。

街の喫茶店で会った。私と同年配の男性だった。

娘の初七日を済ませて、遺品の整理をしていたら、日記が見つかったという。彼は私に日記を開いて見せた。日記の最後には私の電話番号が書かれていた。そしてセーラー服を着た彼女の写真。

彼女は病のため2ヶ月ほど入院していたらしい。それが急な容体の悪化のため、息を引き取ったという。

彼はその写真を私に差し出した。形見にもらってくれと言う。




夏の夜の風をいっぱいに受けながら、わたしは車を走らせていた。

彼女は外泊はおろか、外出さえも許されていなかった。

上着の内ポケットに入れた彼女の写真。

終わることのない道。

頭の中で電話のベルが鳴る。

そして、電話のベルが鳴る。


 
 

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