先日、インターホンが鳴った。

玄関を開けると、そこに立っていたのは、すでに私の次元の大地とは共振していない男性。體の縁取りはようやく保っているけれど、その縁取りは儚く微細動を続けるので、朦朧としている。だから、この世に存在するのかどうかさえ疑われる。

とりあえず家に上がってもらうと、彼は強烈なシェディング臭を放っている。mRNAワクチン接種を4回受けたと言う。ベージュの野球帽を被ったまま脱がない。髪の毛が大量に抜けたらしい。手にはノートを持っている。わたしの意見を書き取るために持ってきたと言う。

彼は體にやっかいなものを抱えていた。病名は「膵臓癌」。すでに、肝臓にも影が見られるという。病院で2週間ほど抗癌剤を入れられたらしい。下痢が続き、口内炎もひどく、固形物を食することができず、点滴で栄養を入れていたらしい。さすがに医師も彼の状態を見て、抗癌剤の投与を中止し、ようやく自分で食べられるようになったので、退院してきた翌日に私の家を訪ねてきたということだ。

医者は匙を投げた。ステージ4なのだから。教科書にそう書かれているからだ。
膵臓癌
https://ganjoho.jp/public/cancer/pancreas/index.html


わたしは彼から食生活や日々の暮らし方を聞いたが、彼の身体から立ち上るシェディング臭は、そのような情報の価値をすべて奪うほど濃厚で、わたしの呼吸まで制限した。ワクチン4回でデトックスが必要なときに抗癌剤を體に入れたのだ。

彼は真面目な男で、かつ、几帳面であり、常識を大事にする。なのに、非常識なわたしの意見を聞きに来たのだ。わたしは、基本的なことを順々と話した。癌の正体についての諸説や、今できることについて。彼はノートをとっていたが、このノートをとるという行動がわたしには分からない。わたしの話など、要点だけ、マッチ箱の裏にでも書けば済むことだと思う。後はネットで情報を検索して、自分なりに考えを整理すればいい。わたしから得た情報を鵜呑みにしてはだめなのだ。大事なのは、自分で学び、自分で決断することだ。

しかし、彼にはもう時間がない。仕方のないことかもしれない。


「體は間違ってはいない」

話は、そこへと、何回か還元されていく。


2時間が経ち、わたしは疲れ果てた。
インスタントコーヒーを入れ、燐寸で煙草に火をつける。

ダイニングテーブルの向こうに彼が座り、こちら側にわたしが座っている。
しかし、わたしは目の前の男性の周波数を捉えられない。
「霊魂だけが来たのか?」
何度もそう思った。
平行世界があれば、そこで、彼は肉体の滅びを体験しているのではないか。
何度もそう感じた。
彼はとても危険な時空にいる。癌のことではない。ワクチンのことだ。
この感覚は、あながち間違ってはいないと思う。

彼はわたしの兄なのだから。

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