「かえろかな」とくちびるが空をかたちどる

わたしには0歳の記憶がある。目の前にある母の乳房の映像を今も覚えている。
小学校4年生の頃まで、わたしは二人いた。體を司るわたしと、體を後頭部の斜め45度上あたりから見ているわたし。わたしは母に尋ねた。どちらが本当のわたしなのかを。しかし、母は何も答えなかった。いや、本当は何か言葉を返してくれたのかも知れない。しかし、わたしの記憶からはその言葉は完全に消え去っている。